音楽機器のズーム社が、商標権侵害でWeb会議「Zoom」提供のNEC子会社を提訴しました。

音楽機器のズーム社、商標権侵害でWeb会議「Zoom」提供のNEC子会社を提訴 新規タブが開きます

上記記事によると、

 

 音楽用電子機器を販売するズーム(東京都千代田区)は9月17日、米Zoom Video Communications(ZVC)のWeb会議システム「Zoom」が同社の登録商標を侵害しているとして、日本でZoomを提供しているNEC子会社のNECネッツエスアイに対して侵害行為の差し止めを求める訴訟を、東京地方裁判所に提起したと発表した。損害賠償は請求せず「和解金などでの解決を排除する姿勢」を見せている。

 

 

 ズーム社は、ZVCがZoomを提供する際に同社の「登録商標と極めて類似した標章を使用」していると主張。2019年10月ごろから電話・メール窓口にWeb会議システムについての問い合わせが殺到するようになった他、20年6月のZVC決算発表の影響でズーム社の株価が2日連続でストップ高を記録し、その後急落したという。「業務上の支障にとどまらず、第三者の投資家に損害を与える結果となり、現在も日々、支障がある」と説明した。

 

コロナ下において、Zoomといえば、WEB会議システムのことかと思ってしまいますが、音楽機器のズーム社は、1983年創業で、WEB会議システムのZoomよりもはるかに歴史が長いです。

 

商標権の侵害なのか?

 

商標権の侵害となるには、登録商標同一又は類似商標を、登録商標指定商品・役務同一又は類似の範囲で業として使用していることが要件となります。

 

音楽機器のズーム社の商標を調べてみましたが、「ビデオによる遠隔会議」のような指定役務は指定されていませんでした。

 

では、何に基づいて、音楽機器のズーム社は、WEB会議システムのZoomを商標権侵害として提訴しているのでしょうか?

 

それは、以下の登録商標のようです。

 

登録第4940899号

 

ZOOMの商標

登録第4940899号

 

上の登録商標には、9類の「電子計算機用プログラム」が含まれています。

 

どうやら、音楽機器のズーム社は、上に示す登録商標に基づいて、WEB会議システムのZoomが「電子計算機用プログラム」についてZOOMの商標を使用しているとして、提訴しているようです。

 

一方で、WEB会議システムのZoomのほうは、以下の登録商標を取得しています。

 

国際登録1365698

ZOOMの商標

国際登録1365698

 

その指定役務は「音声会議通信,電子データ送信,電子メッセージの送信,音声・データ・映像・信号及びメッセージの電子式・電気式及びデジタル式の送信,ネットワーク会議通信,P2Pネットワーク用コンピュータの提供、すなわちコンピュータ間でのオーディオ・ビデオ及び他のデータ及び文書の電子送信,インスタントメッセージによる通信,電話会議通信,テレビ会議用通信端末による通信,テレプレゼンス会議通信,簡易電子メール通信,テレビ会議通信,ビデオによる遠隔会議,テレビ会議用通信端末による通信,ビデオテキストによる通信,ウェブ会議通信,ウェブによるメッセージの通信」です。

 

WEB会議システムのZoomの方は、正当な商標権者であり、専用権の範囲で商標と使用しているといえます。

 

正当な商標権者商標権侵害で訴えられています。

 

正当な商標権者であっても、先願先登録商標指定商品・指定役務抵触する商標の使用をすれば、商標権の侵害となります。

 

 

音楽機器のズーム社は9類について商標登録出願しなかったのか?

 

WEB会議システムのZoom社は、日本でのサービス提供時に、指定商品9類の「電子計算機用プログラム」で商標権を取得することを考えたでしょうが、音楽機器のズーム社の商標が登録されていますので、9類の「電子計算機用プログラム」を指定商品とする商標登録出願をしたとしても、音楽機器のズーム社の先願先登録商標を理由に(商標法第4条第1項11号)、拒絶されます。

 

そのことを、WEB会議システムのZoom社の代理人である弁理士は考えて、9類の「電子計算機用プログラム」を指定商品とする商標登録出願をしなかったものと考えられます。

 

WEB会議システムのZoom社は、2020年5月18日に商標「Zoom」について、以下の指定商品商標登録出願をしています。

 

  第9類   写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,電気通信機械器具,携帯情報端末,コンピュータソフトウェア用アプリケーション(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの),電子計算機用プログラム,電子応用機械器具及びその部品

 

しかし、2020年10月に、株式会社 トンボ鉛筆の先願先登録商標「ZOOM」(登録第4363622号)、音楽機器のズーム社の上記先願先登録商標「Zoom」(登録第4940899号)、レイショナル インテレクチュアル ホールディングス リミテッドの先願先登録商標「Zoom」(登録第6255174号)を理由に拒絶理由商標法第4条第1項11号)が通知されました。

 

WEB会議システムのZoom社の代理人は、意見書において、音楽機器のズーム社の上記先願先登録商標「Zoom」(登録第4940899号)と出願商標非類似であると主張しましたが、拒絶理由が覆すことはできませんでした。2021年9月30日現在では、拒絶査定は確定していませんので、拒絶査定不服審判を請求しているものと考えられます。

 

ZOOMの商標

音楽機器のズーム社の登録商標登録第4940899号

ZOOMの商標

WEB会議システムのZoom社の出願商標

 

 

WEB会議システムのZoom社の代理人の意見書による非類似の主張が面白かったので以下に紹介します。

なお、引用商標2とは、 音楽機器のズーム社の登録商標 登録第4940899号のことです。

 

 

(1) 引用商標2は、商標公報及びJ-PlatPat特許情報プラットフォーム 商標出願・登録情報において「検索用文字商標(参考情報)ZOOM」及び「商標(検索用):§(特殊態様を表す記号)ZOOM」、さらに「称呼(参考情報)ズーム」と掲載されています。しかし、同商標の態様から前記欧文字を抽出し称呼することは極めて難しく、かつ不自然です。

ZOOMの商標

 

引用商標2の三つの構成部分のうち、最も目をひく中央には(無限大を表す)「∞」記号又は横向きにした砂時計のような長方形状の図形が配置されていますが、これが直ちに(図形でなく)連続した欧文字「O」と看取されるとは思えません。また仮に、右側部分を欧文字の「M」ではないかと推測した場合、その上3方の二つの鋭角が「凹(おう)」のように四角く表されているのに対し、左側部分の角は曲線で表されているため(Mと同様に鋭角を有する)欧文字「Z」とは認識され得ず、むしろ数字の「2」を想起させる態様といえます。

 

引用商標2は、たとえ「ZOOM」の文字から創案されたものであっても、看者をして特定の文字を表したものと容易に理解することができない独特の図案化がなされている、または抽象的な図形として認識される商標であって、前記(参考情報)の文字や称呼によってではなく、その特徴的な図形態様(外観)によって取引に資する商標というべきです。

 

ZOOMの商標

(2) これに対し本願商標は、明るい青の色彩を施した「zoom」の文字からなり、「z」は上下とも45度角としつつ、「z」や「m」の直線部分は先端の一方の角に丸みをもたせ、「o」は正円に、「m」は二つの円弧・ドーム状に、すべて同じ太さで表す統一的な態様で図案化された商標です。引用商標2とは外見において顕著な相違があり、取引者・需要者には別異の印象を与えます。また前述のとおり引用商標2から特定の文字を抽出することが困難であるため、称呼や観念においては比較できず、これらを総合的に考察すれば、両商標は明らかに識別可能であり、商品の出所について誤認混同を生じるおそれのない非類似の商標です。

 

音楽機器のズーム社の登録商標の中央の文字が∞の記号のようであり、Oでは無いと主張しています。

ちょっと無理くりな感じがします。

 

 

音楽機器のズーム社の今後について

 

アップルコンピュータは、商標「iPhone」を日本で使用するにあたって、日本のアイホン株式会社(インターフォンの製造会社)に年間1億円のライセンス料を支払っているそうです。

 

本案件も、WEB会議システムのZoom社は、音楽機器のズーム社にライセンス料を支払うことになるのでしょうか。

 

それとも、WEB会議システムのZoom社は、「Zoom」の名称を変更するかもしれません。

 

今後の流れに興味が有ります。

 

 

 

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